【ATM便り】2017年3月30日号 ちょっとお昼にクラシック 小林沙羅(ソプラノ)

ちょっとお昼にクラシック 小林沙羅(ソプラノ)~母の祈りの子守歌~

音 楽

2017 03 31

【ATM便り】2017年3月30日号 ちょっとお昼にクラシック 小林沙羅(ソプラノ)

茨城新聞で毎月1回掲載していただいている「ATM便り」。水戸芸術館コンサートホールATMでのコンサートやイベントに因んだ読み物を、水戸芸術館音楽部門学芸員が分担執筆しています。
昨日(3月30日)付の記事は、4月9日(日)に開催する「ちょっとお昼にクラシック 小林沙羅(ソプラノ) ~母の祈りの子守歌~」に因んだ話題をお届けしました。
このコンサートで取り上げられる19世紀の女性作曲家ポーリーヌ・ヴィアルドのご紹介。
なかなか曲を聴く機会が少ないと思われる作曲家ですが、調べてみると、とても興味深い人物ですね。19世紀フランス音楽界のキーパーソンの一人のようなところもあります。

記事に一部加筆して、このブログに転載させていただきます。


ATM便り 2017年3月30日号

4月9日(日)の「ちょっとお昼にクラシック」では、国内外で実力が高く評価されている人気ソプラノ歌手の小林沙羅さんを迎えてお贈りします。
昨年に第一子が誕生したばかりの小林さんにふさわしく、今回は子守歌やアヴェ・マリアなど、「母」にちなんだクラシックの名曲を集めました。
共演はピアノの河野紘子さんとチェロの髙木慶太さん。
ぬくもりのあるアンサンブルにゆったりと身をゆだねていただければと思います。

今回のプログラムのなかで、作曲家としての知名度は高くなく、演奏の機会も多くはないものの、今回のテーマにぴったりで、ぜひご注目いただきたい作品があります。この場を借りてご紹介したいと思います。

フランスの女性作曲家ポーリーヌ・ヴィアルド(1821~1910)の〈星〉という歌曲。地上を照らす星の光が母親の優しいまなざしのようにも感じられ、安らかな気持ちになれる音楽です。

80年代頃から音楽学において女性作曲家の研究が大幅に進み、音楽史に重要な役割を果たした女性の存在が注目されるようになりました。ヴィアルドもその一人でしょう。

ヴィアルドの本職は歌手でした。ソプラノからアルトまでをカバーする幅広い声域の持ち主で、オペラ歌手としての演技力も傑出していたため、デビュー後たちまち一世を風靡しました。
ショパンやサン=サーンスが彼女の伴奏を務め、シューマンやフォーレが彼女に曲を捧げ、ベルリオーズやブラームスなど、彼女が初演を手掛けた作品も数多くあります。
フォーレは彼女の歌曲から特に多くを学び、ヴィアルドの娘と婚約もしています(残念ながら破談になりましたが)。
ロシアの文豪ツルゲーネフに至っては、すでに夫も子もいたヴィアルドに惚れ込んでパリのヴィアルド家に住み込み、執事のように彼女の子どもたちを世話したと言いますから、まったく驚くばかりです。
ツルゲーネフを通じて、ヴィアルドはロシア語やロシアの詩に接しています。ロシア語の発音はロシア人と変わらないレベルであったとか。
歌曲〈星〉もロシアの詩人アファナーシー・フェートの詩に作曲されました(コンサートではドイツ語訳詩でお聴きいただきます)。

母親としてのヴィアルドは4人の子どもを育て、皆、音楽や芸術の道を歩んでいきます。きっと日常のなかに歌があふれる家庭だったのでしょう。
彼女の音楽は華麗な大曲というわけではありませんが、美しい歌曲が数多くあります。
19世紀オペラ界のスターにして幸せな家庭の母親でもあったヴィアルドの〈星〉、どうぞお楽しみください。

篠田 大基
篠田 大基
hshinoda@arttowermito.or.jp

音楽部門学芸員