新作短編小説『大群青の夢』(岡部えつ作) その三「無限の夢幻」掲載!

無限の夢幻

音 楽

2017 07 10

新作短編小説『大群青の夢』(岡部えつ作) その三「無限の夢幻」掲載!

小説家の岡部えつさんが、スガダイロー・プロジェクトvol.3「大群青」のために特別に書き下ろしてくださった3つの短編小説『大群青の夢』も、ついに最終回。今日はその三「無限の夢幻」をお贈りします。

その一「梅の香」の幕末、その二「青い眼」の昭和をへて、時はいよいよ平成へ!スガダイローや大群青の、あの全てを包容しながら嵐のように響きわたる音楽の様子を余すところなく描いた、美しい小説の誕生です。彼らの音楽を聴いたことがない方も、きっと小説の世界からその魅力を感じていただけるはず。『大群青の夢』全三篇は、当日配布プログラムにて掲載いたします。
ぎらつく目をした男と魑魅魍魎「群青」たちが、水戸で大いに繰り広げる「無限の夢幻」。七月二十二日夜を、心待ちにいたしましょう!


大群青の夢
その三/無限の夢幻

岡部えつ

  名は群青と申します。名前の他には何もない、芥子粒みたよな虫けらです。埋葬虫夢虫月水虫。色んな虫に変じては、女の悋気を食らいます。
  哀しい女が呼ぶのです。
  寂しい女が呼ぶのです。
  苦しい女が呼ぶのです。
  さめざめ泣いて呼ぶのです。
  男の身勝手我が儘と、浮気薄情冷酷が、ずたずたにした胸の内、膿んで溜まって固まった、怨みの結晶瘡蓋を、食っておくれと呼ぶのです。
  その声聞けば飛んで行き、鬼と変じた狂い女の、醜く歪んだ頬の上、とまって熱い涙舐め、干からびきった唇の、割れ目にそっと入り込み、その奥深く潜ります。
  哀しい女の瘡蓋は、忘れた夢の味がする。
  寂しい女の瘡蓋は、捨てた望みの味がする。
  苦しい女の瘡蓋に、腐った幸福ひと欠片。
  隅から隅まで貪って、食い尽くしたら目を瞑る。膨れた腹からげふげふと、戻るおくびが唄歌う。

  愛した男に求められ、欲しがるものは何もかも、この身も心も魂も、与えてやれば喜ばれ、喜ばれたら嬉しくて、そうして無邪気に与えたら、わたしの抜け殻影法師、使い果たされ捨てられて、泣くことさえも疎まれた。
  愛したかっただけの人、喜ばせたいだけの人、笑ってくれれば幸せで、求めたものは何もない。
  憎むことしかできぬなら、いっそすべてを失くしたい。

  優しく柔く清らかに、戻った女が見る夢は、汚れを知らぬ少女期に、追った小鳥や蝶や花。産毛が光る白い頬、触れる木漏れ陽春の風。
  女がほっとつく息に、乗ってわたしは外に出る。甘い香がする唇に、口づけをして飛んで行く。

  こんな小さな虫けらに、そんな力をくれたのは、生まれも名前もわからない、ぎらつく目をした男です。
  妖術使いかペテン師か、はたまた天使か妖精か、正義の味方と言いたいが、邪気の匂いもさせている。たくらみ湛えて笑う口、出てくる言葉は塩辛い。
  男が指で操るは、陰陽のごとき黒と白、八十八の鍵の先、弱くて強い糸の束。引いて弾いて打つ様は、そっくり傀儡廻しです。
  ならばわたしは傀儡です。男の指に操られ、虫の頭を振り立てて、女の瘡蓋食らうのも、自分の心と別のこと。
  男が指打ち糸引けば、似たよな虫や畜生や、人の形した化物が、そちやこちから何百と、湧いて生まれてぞろぞろと、輪になり叫び駆け回る。
  黒の鍵盤鳴ったなら、女傀儡が舞を舞う。
  白の鍵盤鳴ったなら、男傀儡が四股を踏む。
  太鼓鳴らして嵐呼び、喇叭雷鳴轟かす。暴れる風が詩を吟じ、稲妻光らせ獅子が舞う。琵琶の唸りに死者目覚め、三味線歌えば水子泣き、鉦に小太鼓雨降らせ、笛が叫んで地が裂ける。
  男が生んだ魑魅魍魎、群青たちの竜巻は、天に昇って一匹の、龍の姿に成り果てる。
  天上響く咆哮は、宿怨鎮める子守唄。
  龍が奏でる旋律は、無限の先に突き刺さり、この世のすべての膿んだ傷、吸い上げ飲み干し夢にして、あとに美麗な清水を、流して傷痕慰める。

  平成二十九年の、七月二十二日夜、男が龍の背に乗って、現れ出でるは水戸の街。大団円のその先に、何が残るか残らぬか。
  集えや歌え、舞い踊れ。我を忘れて跳ね叫べ、無限の夢幻に身を預け、大群青に酔い痴れよ。

  あとは、よしなに。

(了)

◆PROFILE
岡部えつ(小説家)
2008年第三回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞。
2009年短編集「枯骨の恋」で小説家デビュー。
2015年、長編小説「残花繚乱」がTBSテレビにて「美しき罠〜残花繚乱〜」として連続ドラマ化される。
怪談、恋愛、いじめ問題など、テーマは様々だが、一貫して“女”を描く。
スガダイロー氏とは、自らが主催した朗読ユニット『業』にて共演。


スガダイロー・プロジェクトvol.3「大群青」
2017年7月22日[土]18:30開演
水戸芸術館ACM劇場
出演:
スガダイロー(ピアノ)、Dr.Firebone(サクソフォン)、池澤龍作(ドラム)、吉田隆一(サクソフォン)、櫻井亜木子(薩摩琵琶)、福原千鶴(鼓)、星衞(チェロ、笛、電子獅子舞)、辻祐(太鼓)、佐藤史織(三味線)、ジュンマキ堂(チンドン)、ノイズ中村(マネージャー)、志人(詩人・作家・作詩家)、石川広行(トランペット)、河内大和(役者)、早瀬マミ(女優)、荒悠平(ダンサー)、高橋保行(トロンボーン)、菅佐原真理(ダンサー)、びっくり丸ぽんすけ(ラッパー)、ドラゴン岩村(ドラム)、あらいぐまMC(ラッパー)、パニック大原(サックス)、納豆の妖精ねば~る君

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takasumaki
makit@arttowermito.or.jp