【ATM便り】藤村実穂子 メゾ・ソプラノ・リサイタル

音 楽

2018 02 21

【ATM便り】藤村実穂子 メゾ・ソプラノ・リサイタル

茨城新聞で毎月1回掲載していただいている「ATM便り」。水戸芸術館コンサートホールATMでのコンサートやイベントに因んだ読み物を、水戸芸術館音楽部門学芸員が分担執筆しています。
今回はいよいよ2月25日(日)に開催が迫った「藤村実穂子 メゾ・ソプラノ・リサイタル」にちなんだ話題をお届けしました。


ATM便り 2018年2月19日号

新たな骨格、世界に道

 

水戸芸術館音楽部門芸術総監督として「300人の第九」や「オペラの花束をあなたへ」など数々の人気公演を企画した故・畑中良輔氏が、「日本人の歌手が世界に出るのは本当にむずかしいこと。実穂子のようにヨーロッパで、バイロイトで歌い続けられるなんて奇跡的だ」と語っていたのが強く印象に残っています。

日本を代表する声楽家であり、ヨーロッパの名作オペラを戦後の日本に紹介した草分け的歌手でもあった畑中氏の言葉だけに、特別な重みがあります。言葉の問題、体格の問題(歌手にとっての楽器は体です)は、器楽奏者よりはるかに重く歌手にはのしかかってきますし、ヨーロッパでオペラに出演するとなれば、1か月以上劇場に通いつめ、現地の共演者やスタッフと密にコミュニケーションを取らなければなりません。どうしても人種や文化の違いといった問題が出てきます。

2月25日に水戸芸術館でリサイタルを開く藤村実穂子さんは、ヨーロッパでその問題と真正面から向き合い、自らの活躍する道を切り拓いてきた“世界のメゾ・ソプラノ”です。藤村さんは、こう語っています。

「自分の骨を削るような気持ちで歌わねばならないのは、この世界で生きていく新しい骨格をつくるためなのだ、と気づいた。人種や文化の違いを超えた、あなたなりの“核”を見つけなさい。そう歌の神様が教え、学ぶ機会を用意してくれたのだと。」

想像を超える厳しい世界で自らを律し、戦ってきた藤村さんは、やがてその実力を認められ、ワーグナーのオペラを歌う歌手にとっては世界最高の舞台であるバイロイト音楽祭に毎年のように出演しています。ここに至るまで積み重ねてきた努力は(歌以外のことも含めて)、並大抵ではなかったはずです。

地道にその道を究めてきた人でなくては出せない、静かな炎のようなオーラが、藤村さんが舞台に姿を現した瞬間、ホール全体を包みます。そして、その心地よい緊張感の中、歌を聴くよろこびと味わいが聴き手の心にしみじみと広がっていくのが、藤村さんのリサイタルなのです。

(水戸芸術館音楽部門主任学芸員・関根哲也)

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