〈きよしこの夜〉誕生200年。平和を祈るクリスマス・ソングを贈ります

クリスマス・プレゼント・コンサート2018

音 楽

2018 11 13

〈きよしこの夜〉誕生200年。平和を祈るクリスマス・ソングを贈ります

今からちょうど200年前、1818年のクリスマス・イヴの出来事です。オーストリアのザルツブルク近くの小さな町オーベンドルフの聖ニコラウス教会では、一騒動が持ち上がっていました。教会のパイプオルガンが故障してしまったのです。オルガンなしで、クリスマスのミサの音楽をどうしたらよいでしょう?

一計を案じたのは、助任司祭のヨゼフ・モールと教会オルガニストのフランツ・グルーバーでした。モールが書いた詩にグルーバーが急いで曲を付けて、ミサで歌おうというのです。オルガンの代わりに二人が選んだ楽器は、ギターでした。

オーベンドルフには地域特産の塩を運ぶ船が行き来するザルツァハ河の河港があり、船乗りが好んで弾くギターは珍しい楽器ではありませんでした。しかし敬虔な信者のなかには、ギターは世俗的な楽器であって、教会に相応しくないと考える人も、少なくはなかったようです。そんなギターの伴奏で歌われるモールの詩もまた、一風変わっていました。

Silent-Night-Chapel in Oberndorf

オーベンドルフ 〈きよしこの夜〉記念礼拝堂
Photograph by Gakuro

Stille Nacht, heilige Nacht,
Alles schläft; einsam wacht
Nur das traute hochheilige Paar.
Holder Knabe im lockigen Haar,
Schlaf in himmlischer Ruh!

(静かな夜、聖なる夜、
ものみな眠り、起きているのは
互いを信じ合う聖夫婦だけ。
巻き毛のかわいい坊や、
お眠り、天国のように安らかに!)

今では世界中で歌われている〈きよしこの夜〉です。この歌は200年前のクリスマス・イヴに、このようにして生まれたのでした。

ところで、〈きよしこの夜〉の詩をあらためて読んでみると、イエス・キリストの父ヨセフと母マリアは、まるで特別なところのない、どこにでもいる夫婦のようではないでしょうか。事実19世紀末には、この歌には宗教性が感じられないとしてキリスト教会内部で批判が起こったこともありました。しかしこのような普遍的な夫婦、家族の姿を歌った詩だからこそ、〈きよしこの夜〉は時代を超えて歌い継がれてきたのかもしれません。

〈きよしこの夜〉の歌詞にさらに深い意味を読み取ったのは、『雪のひとひら』『猫語の教科書』などで知られるアメリカの小説家ポール・ギャリコでした。彼はドキュメンタリー風の小説『「きよしこの夜」が生まれた日』のなかで、当時のオーベンドルフの状況に目を向けています。

「ナポレオンの軍隊がこのあたり一帯を荒らし、家々や干草の山のもえる火が夜空をあかく彩り、墓石がいちめんに林立したのは、ほんの十数年まえのことです。フランス軍がオーストリアに攻めこみ、彼らの引揚げたあと、今度はオーストリア対ドイツの戦争があったのです。
けれどもその戦いも終って、いまでは老いも若きも安らかに眠ることができるのでした。」
(『「きよしこの夜」が生まれた日』矢川澄子訳、p. 28)

ギャリコの小説のなかで、グル―バーは〈きよしこの夜〉の詩に曲をつけようとして過去の戦争を思い起こし、曲を心なごませる子守歌にしようと決めます。曲を奏でるのは民衆に近しい楽器のギター。人々が安らかに眠れる静かな夜が、平和が、どれほど尊いことか――〈きよしこの夜〉には、言外にそんなメッセージも読み取れるのです。

池辺晋一郎

池辺晋一郎(企画・司会)

12月23日(日・祝)、水戸芸術館では毎年恒例の「クリスマス・プレゼント・コンサート」を開催します。水戸出身で日本を代表する作曲家の池辺晋一郎さんの企画と司会によるこのコンサートは、聖夜にふさわしい豪華な出演者とジャンルを横断する多彩なプログラムが魅力です。

今回のコンサートを彩る数々のステージのなかには、ギターの演奏もあります。出演は、豊富なレパートリーをもつクラシック・ギタリストの鈴木大介さん。今回のために鈴木さんが選んだ曲目には、〈きよしこの夜〉のメッセージに符合するかのように、平和を祈る音楽が2曲、加わっています。1曲はフェデリコ・モンポウの〈歌と踊り 第13番 “鳥の歌”〉(1972)。もう1曲は、池辺晋一郎さんの〈ギターは耐え、そして希望し続ける〉(2007)です。

フェデリコ・モンポウは、繊細で静謐な音楽が特色の20世紀のスペインを代表する作曲家。〈歌と踊り〉のシリーズは、題名のとおり「歌」と「踊り」の2部分からなり、第13番の「歌」には、モンポウの故郷カタルーニャの民謡〈鳥の歌〉が使われています。〈鳥の歌〉はもともと、イエス・キリストの誕生を鳥たちが祝い歌うという内容のクリスマス・キャロルでしたが、モンポウと同じカタルーニャ出身で、生涯平和運動に従事したチェリスト、パブロ・カザルスの手により、平和を祈る歌として世界中に知られるようになりました。

「私の故郷カタルーニャで、鳥たちは平和ピース平和ピース平和ピース!と鳴きながら空を飛ぶのです」

1971年、カザルスは国連総会会議場でこのようなスピーチをして〈鳥の歌〉を弾きました。モンポウの〈歌と踊り 第13番〉はその翌年に作曲されています。

鈴木大介(ギター)

鈴木大介(ギター)
©Matsunao Kokubo

もう1曲の池辺晋一郎さんによる〈ギターは耐え、そして希望し続ける〉は、池辺さんがテレジーン強制収容所(第二次世界大戦中にナチス・ドイツが設立したユダヤ人収容所の一つ)の跡地を訪れた体験から生まれ、鈴木大介さんが初演した作品。収容所で池辺さんは、手造りのヴァイオリンが展示されているのを目にします。「想像を絶する状況のなかで、いや、だからこそ、「音楽」を欲していた」。そして「テレジーンにはギターを弾く人が収容されていたかもしれない」と考えたことから、〈ギターは耐え、そして希望し続ける〉は書かれました。

鈴木さんはこの作品について、その楽譜を初めて見たときの印象を次のように語っています。

「私はそれが闘いのなかに小さくても希望を見つけようとする人たちの音楽だということを瞬時に理解した。」
(鈴木大介 CD『ギターは耐え、そして希望しつづける』ライナーノート)

〈きよしこの夜〉が生まれてから200年。世界から戦争がなくなることはありませんでした。しかし〈きよしこの夜〉をはじめ、数々のクリスマス・ソングが、平和を呼びかけ続けています。第一次世界大戦中の1914年のクリスマス・イヴには、前線で対峙するドイツ軍とイギリス軍が〈きよしこの夜〉を歌って一時休戦しました。第二次世界大戦中の1942年には、アメリカでビング・クロスビーが〈ホワイト・クリスマス〉を発表。ラジオから流れるこの曲を戦地で聴いたアメリカ兵たちは、望郷の思いを募らせたといいます。1971年にはベトナム戦争に反対するメッセージを込めた新しいクリスマス・ソングが誕生しました。ジョン・レノンとオノ・ヨーコによる〈ハッピー・クリスマス〉です。かつてオーベンドルフの教会で〈きよしこの夜〉を伴奏したギターの音は、いまやビートの効いた力強いサウンドで、クリスマスを過ごす私たちの胸に平和を訴えかけてきます。

天羽明惠(ソプラノ)

天羽明惠(ソプラノ)
©Akira Muto

今回の「クリスマス・プレゼント・コンサート」では、国内外の舞台で喝采を浴びているソプラノ歌手の天羽明惠さんの歌唱で、〈ホワイト・クリスマス〉と〈ハッピー・クリスマス〉をお聴きいただきます。〈ハッピー・クリスマス〉ではNHK水戸児童合唱団も加わります。そしてもちろん〈きよしこの夜〉も、NHK水戸児童合唱団の歌声でどうぞ。

最後に、〈ハッピー・クリスマス〉の有名なリフレインをここに記しましょう。

War is over, if you want it.
(戦争は終わる。君が望めば。)

NHK水戸児童合唱団

NHK水戸児童合唱団

(『vivo』2018年12月+2019年1月号より。一部ブログ用に改稿)
『vivo』の記事では、池辺晋一郎さんの〈ギターは耐え、そして希望しつづける〉について、「鈴木大介さんによる委嘱作品」と書いておりましたが、正しくは、所沢市民文化センター・ミューズの委嘱で作曲され、鈴木大介さんが初演した作品でした。謹んで訂正いたします。本ブログの記事は修正済みです。(11/20)


 

<公演情報>

クリスマス・プレゼント・コンサート2018
https://www.arttowermito.or.jp/hall/hall02.html?id=1494

12/23(日・祝) 17:00開演
会場 水戸芸術館コンサートホールATM
全席指定 一般¥3,500 ユース(25歳以下)¥1,000

【企画・おはなし】池辺晋一郎
【出演】
天羽明惠(ソプラノ)、鈴木大介(ギター)、荒木奏美(オーボエ)、吉田 秀(コントラバス)、長尾洋史(ピアノ)、田中直子(ピアノ)、原田昌江(合唱指揮)、NHK水戸児童合唱団、龍田優美子(オルガン)

※開場前と終演後にエントランスホールでミニ・コンサートがございます。
開場前 16:20~:荒木奏美(オーボエ)、龍田優美子(オルガン)
終演後:NHK水戸児童合唱団、原田昌江(指揮)、龍田優美子(オルガン)

篠田 大基
篠田 大基
hshinoda@arttowermito.or.jp

音楽部門学芸員