宮本益光さんインタビュー② “オペラ”の懐の深さと特異性

音 楽

2018 04 28

宮本益光さんインタビュー② “オペラ”の懐の深さと特異性

6月17日(日)の「ちょっとお昼にクラシック」にご出演のバリトン歌手・宮本益光さんのインタビュー記事第2弾!今回はオペラの本場ヨーロッパで感じたこと、共演ピアニストである髙田恵子さんと創る音楽について伺いました。


 

―イタリアやウィーンに定期的に行っていらっしゃるそうですね。

どちらも毎年行っています。イタリアは2008年から、ウィーンは2012年から。どちらもリフレッシュと勉強を兼ねて。最近では小さな本番も入れてもらえるようになりました。

―オペラの世界ではイタリアとドイツが2大巨頭ですが、それぞれの国のオペラの違いをどのように感じますか?

大きなオペラハウスではイタリアでもドイツでもウィーンでも、もはやその国の人たちだけでやっていない。それは逆にオペラの可能性だと思っています。日本語のオペラがあるように、今ではどの先進国でもオペラと名のつく音楽劇があります。イタリアで生まれた一つの文化、様式が、時代と国境を越えて広がっていっている。

非ヨーロッパ圏の人がオペラをやるということは、アフリカの人がいきなりやってきて、「私は歌舞伎をやるんですよ」っていうようなものですよ。歌舞伎ができない日本人の私が、「あなたにできるんですか?」っていう懸念を持ちますよね?彼らも少し前には日本人がオペラをやることに対してそのような懸念は持っただろうけれども、逆に言うと今ではそれが許されている状況があります。それはオペラの懐の深さ、発展する可能性を持っているということだと思います。

時代をさかのぼってみると、モーツァルト以降のドイツ語圏の作曲家たちはオペラを作曲するときに、貴族の文化であるところから離れて母国語を使うことによって、より音楽の深さを求めたように思います。当時オペラの中にくすぶっていた「もっと広まったらいいのにな」という思いが、社会的なあり方から解放されていったという意味においては、ドイツ語圏のオペラには、様式から飛び立とうとするパワーを感じます。より個性的だという印象を持ちます。

しかし、いまやイタリア・オペラがイタリアだけの文化かと言われると、外国人としての私から見て一概にそうとも言えません。一方で、イタリアの地方の歌劇場に行くと、イタリア人を中心に上演しているところもあります。オケの音が決して揃っているわけでもなく、指揮もあれでいいのかな、といった町の歌劇場でヴェルディのオペラを観たときに、一見雑なんだけど、物凄いパッションを感じる時がある。それを聴くと、「あぁ、これはやっぱり彼らの作品なんだな」と思うのです。また、ウィーン・フォルクスオーパーでオペレッタを観たり、ウィーン国立歌劇場でシュトラウスを観たりすると、イタリアで聴くシュトラウスとは明らかにアプローチが違っている。オペレッタに至っては、これまた雑に聞こえたり、日本人のほうがもっといい声の人がいるのでは、と思うこともある。しかし、阿波踊りを見て興奮する自分がいる。阿波踊りは習ったらどこの人でもできるのかもしれないけど、地元の人たちにしかできないお祭りという面もありますよね。オペラもそんな側面があって、一見懐が深くて世界に広がる理由もありながら、民族としての型を見せつけられると、やはり手が出せないなぁというものも感じる。不思議ですよね。

昨年、ヨハン・シュトラウスのオペレッタ《こうもり》のファルケ役を演じる機会があって、その準備のために様々な歌劇場の《こうもり》を観ました。すると「これをやるのはムリだ」と思ってしまうこともありました。ハンガリーの人が歌うチャールダッシュなんかを聴くと、決して美声とは言えない場合でも、とにかく凄いんですよ。そこになにか独特の魅力があって、いわゆる日本人が考える美しい未亡人の夕方、みたいな感じではないんです。ああいうの見ると「やっちゃいけないかなー」なんて思うこともある。けど《こうもり》を実際にやってみて、シュトラウスと向き合えていないかというと、そんなことはなくて、音楽との対話はできていた気はするのです。オペラには、世界の人を受け入れて広まる懐の深さと、ローカルな特異性という矛盾したものがあって、私自身ときどき立ち位置に悩むのです。

髙田恵子さんとの共演(提供:日本声楽家協会)

―今回は録音やコンサートでも共演が多い髙田恵子さんのピアノと共にお届けしますが、宮本さんにとって、髙田さんはどのようなピアニストなのでしょう。 

私はあまり多くのピアニストと共演する方ではありません。その中で、髙田さんは私が最も多く共演しているピアニストの一人で、とても優秀な方です。本番で1つの曲を1年間に何回歌うのか、と聞かれたら、それは日本の歌手はヨーロッパで活躍している方よりずっと少ないでしょうけど、そんな状況の中でも〈闘牛士の歌〉を今まで彼女の伴奏で歌うのは数えきれないほどです。一つの作品が何度も反復されることで成熟するように、演奏も2人で作り上げることで届く場所があると思うのです。もちろん、違う方の伴奏で歌うこともあり、髙田さんと継続して作り上げたものとは違うアプローチで見えるものもあります。そこで得た刺激を髙田さんとの継続の中でも取り入れていく。彼女とはお互い突き詰めていく方向性が一致していて、そこに安心感がある。「明日髙田さんとリサイタルをやってください」と突然依頼されても、数日続けてやる自信はあります。それぐらい2人でできるレパートリーがあります。

(聞き手:鴻巣俊博 協力:㈱二期会21)


インタビュー第1弾はこちら(ビデオメッセージもあります!)

宮本益光さんインタビュー①  “歌”に生き、“役”に生き、“言葉”を紡ぐ歌手の素顔https://blog.arttowermito.or.jp/staff/?p=20295

インタビュー第3弾

宮本益光さんインタビュー③  心に詩を持つこと~歌を子どもたちと分かち合う喜びhttp://blog.arttowermito.or.jp/staff/?p=20364


<公演情報>
ちょっとお昼にクラシック 宮本益光(バリトン) “歌”のときめき “言葉”の煌めき


http://www.arttowermito.or.jp/hall/hall02.html?id=1468
6/17(日)13:30開演(13:00開場)
会場 水戸芸術館コンサートホールATM
全席指定 1,500円(1ドリンク付き)

宮本益光(バリトン)
髙田恵子(ピアノ)

【曲目】

成田為三(林古渓作詞):浜辺の歌
瀧廉太郎(土井晩翠作詞):荒城の月
山田耕筰(北原白秋作詞):あわて床屋
中田喜直(三好達治作詞):木兎

信長貴富(宮本益光作詞):空の端っこ、うたうたう、貴種流離譚

モーツァルト:
〈フィガロの結婚〉より“もう飛ぶまいぞ、この蝶々”
〈ドン・ジョヴァンニ〉より“窓辺のセレナーデ”
〈魔笛〉より“オイラは鳥刺しパパゲーノ”(日本語訳詞)
ビゼー:〈カルメン〉より“闘牛士の歌”
武満徹:小さな空

音楽スタッフ水戸芸術館
水戸芸術館 音楽スタッフ
mitogei.music@gmail.com